山鳥の矢
むかし、むかし。
あるところに、トトさんは早くなくなって、カカさんと息子がいっしょにくらしておりましたちゅう。
ある年の暮れに、息子がいいました。
「おっかん、正月も近うなってくっから、おれが里の店に買物に行たてくっかア。」
それから息子は、山の中の一軒家のわが家をあとに、坂道をのぼって村里へ出かけました。
坂道をあえぎあえぎ急いでいると、道わきのやぶの中から、パサパサッ、パサパサッという音が聞こえてきました。
「あわ、今の音は何じゃろうかい。」
じっと耳をすましていると、またパサパサッ、パサパサッという音がしました。
「おかしかなあ。」
息子はどうも不思議でなりません。
やぶをかきわけて中にはいってみました。
ところが、だれかが仕かけた鳥わなに、山鳥がかかって、パサパサもがいているのでした。
「あー、山鳥、わあ、わなにかかったーんな。あれがはずしてくっかア、ネ。」
息子は山鳥のわなをはずしてやりました。
山鳥は息子の頭の上をくるっと一回まわってからどこかへ飛んでいきました。
「だいか知やんが、このわなをかけた人にゃ、すまんことをしたわい。
その人も正月は来るし、鳥の一羽でもとってそいを売って、正月の買いものをすっとじゃなかったんかい。」
そして、息子はかたわらにおちていた一枚の広い木の葉をひろげて、その上に自分が買いものに行くためにもってきた銭をのせておきました。
息子は買いものはできないので、そのまま手ぶらでひき返しました。
家ではカカさんが息子の帰りを今か今かと待っていました。
やがて帰ってくる息子の姿がみえました。
「まこち、ま、かいもんに行くっちゅて出たとに、何ももたんじ手ぶらで来んが、はア。」
カカさんがあきれていると、家に帰りついた息子がいいました。
「おっかん、きょうはけーもんに行くつもりで坂道をのぼっていたとこいが、山鳥がわなにかかっちょって、あんまいぐわーしゅうして、わなをはずしてのがしてやったよ。
とこいが、わなをかけた人も、鳥でもとってそれで正月のしめをすったんろうと思うたとこいが、そん人がぐわーしゅうなって、銭な全部、わなのねきにえーてきた。」
「そうか。そげなことじゃったとか。そんならよかことをしたね。」